社員だけがなじられる世界

貯金をするためにたくさんシフトに入れるバイトを探していたところ、テレフォンアポインターのアルバイトの募集がありました。詳しい内容は書いてありませんでしたが、仕事内容はお客様に自社商品の案内をする、誰にでもできる簡単な仕事だといいます。未経験でも可能とのことだったので、高い時給につられて応募することにしました。

次の日には採用担当者から電話が来て、すぐに面接をすることに。採用担当の社員さんはとても感じが良くて優しそうなのが印象的で、面接後トントン拍子に話が決まり、明日から来てくださいとのことでした。 次の日就業より早めに会社に着くと、パートさんやアルバイトさんと思われる女性達がいました。挨拶をすると誰もが感じよく会釈をしてくれ、いい職場環境かもしれないと期待が高まりました。就業開始の9時ちょっと前になるとみんなはそれぞれのデスクに行き、私は研修のため会議室に連れて行かれました。そこでテレフォンアポインターの研修ビデオを観て、簡単な発声練習をさせられました。電話帳のような分厚い電話対応マニュアルを手渡され、明日には覚えてきてと言われてびっくりしました。

そして次の日。終業時間よりも早めに準備をしていると、突然男の人から「君、今日から?」と声をかけられました。「はい」と答えると、「こっちこっち」と腕を引っ張られて長いテーブルの奥に座らせられました。目の前には電話があります。 就業時間になると一斉にアルバイトの人たちが電話をかけ始め、それまでしんと静まり返っていたオフィスが一気に騒がしくなりました。ふと横を見ると、大きな紙に棒グラフが書いてある紙が目に入りました。棒グラフの下には名前が書いてあり、成績表だと一発でわかるものです。そうしてオフィス内をぼーっと見ていると、先ほどの男の人に「何してるの、早く電話をかけて!」と急かされました。気付くと目の前にはたくさんの電話番号をコピーした紙が置いてあり、上から一つずつかけていくもようです。私が電話をかける内容は、某浄水器のセールスなので、決して多くの人が聞きたい内容ではありません。しかしそれが仕事なので電話をかけますが、名前を言うだけで電話を切られてしまったり、時には罵倒されることもあり、まともに話を聞いてもらうこともできません。

何件か目の電話をかけようとした時、先ほどの男性がある女性に向かって叫んでいるのが見えました。突然のことにびっくりして、私はきっとノルマがあって、ノルマを超えないとあんな風に怒られるんだとうと思っていたのです。しかしそれから日にちが経つにつれて、怒られる人と怒られない人がいるのに気付きました。休憩時間やお昼には仲のいい人が固まっていますが、なぜか怒られる人同士が固まっているので不思議に思っていると、ある女性が私に向かってこう囁いたのです。

「社員は大変だよねぇ」

そこで分かったのは、怒られているのは社員だけだったということです。社員は毎月固定給が出ているためノルマが厳しく、ノルマを達成しないと罰金制度もあるとのことです。アルバイトにはノルマはありませんが、それなりの数を取れないアルバイトは必然的に出勤日数が減らされるとのことでした。

働いている以上出勤日数は減らされたくありませんが、しかしそれでもアルバイトと正社員のプレッシャーは相当なものです。どうやら会社は同僚を競わせてより高い結果を出したいと考えていたみたいですが、私たちアルバイトから見れば社内の空気は荒み、妬みや僻みが渦巻くドス黒いものに感じました。アルバイトはミスをしてもアポイントの数がさほど取れなくても「頑張ってよ」と言われる程度。社員は叱咤罵声のピリピリムードの中罰金が待っている異様な世界です。アルバイトと正社員はもちろん待遇が違うものですが、ここまであからさまだと同じ空間で働くのも辛いと感じました。